「初回のはしかワクチンで抗体が出来ない確率は5%くらいです」
これは,はしかワクチン2回目接種の質問をした患者さんに対する保健所の答えです.
これを聞いて,患者さんは,「じゃ,95%は抗体が出来ているのだろうから,わざわざ2回目のワクチンを打つ必要はないな」という結論に至りました.
保健所の答えは,決して間違いではないのです.が!あまりにも言葉足らずで,一般の方に誤解を与えまくる答えです.
どういうことかというと...
今年も神奈川県では麻疹(はしか)が流行っています.
ここ最近の流行に対して,国も重い腰を上げて,ワクチンの接種の回数を増やしました.
http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/index.html
具体的には,今まで1歳のときにMRを打つだけだったのが,数年前に小学校入学前に2回目を打つという制度が導入されました.
でもこれだと,今の小学生の高学年以上の子供はみんな1歳のときの1回打ちですね.
これを,全員が2回打ちできるように,中学1年,高校3年のときに,2回目のワクチンを打ちましょうという制度が今回導入されたわけです.
では,なぜ2回打ちをするように制度化されたか.
今まで,生後1歳のときにMR(はしか,風疹)ワクチンを接種していました.
これを1回打って,はしかのウイルスに対する抗体が出来る率は約95%.
じゃあ,抗体が出来ないのは5%だったら,そんな大騒ぎすることはないと思いますか?
抗体が出来ていないのは100人のうち5人だけだったら,今時の大学生で,はしかの大流行が起きるのはなぜでしょうか?
これは,抗体の力がだんだん落ちてくるからだといわれています.
昔は,そこらじゅうではしかにかかっている人がいました.そういった人に接する機会も多かったので,おのずと時々抗体を刺激して,抗体価が低下しなかったと考えられています.
ですが,現代になって,はしかが激減しました.
そうすると,1歳でワクチンを打っても,その後はしかに接することなく成長して,次第にはしかに対する抗体が弱まっていくのです.
そして,昨今の20歳前後の若者のはしかの流行は,こういった人たちに感染が広まったと考えられます.
世界中で,これだけのはしか流行国は先進国ではまずありません.
最近は,はしか輸出国として,世界の悪評を買っているのです.
こういったはしかの流行を今後,断絶するために,みんなが2回打ちをして,抗体をつけてはしかを撲滅していこうというのが,今回の国の計画です.
そういった対策に対して,その一翼を担うべき保健所が,その理由も話さず,さも1回のワクチンで抗体が出来る人が95%いて,だから(言外に)2回目のワクチンは打たなくてもいいのでは,と解釈されるようなコメントをするのは,とても腹立たしいことです.
つい,先ほど苦情の電話を保健所にしてしまいました.
これから先,そういった曲解された情報が広まらなければいいのですが...